焼き肉屋さんに行くと、さまざまな部位の肉やホルモンがメニューに並んでいます。この中で「マルチョウ」や「コプチャン」と呼ばれているのは、牛の小腸です。
本記事では牛の小腸の特徴や、他の腸との違い、牛の腸のおいしい食べ方などについて詳しく解説します。
焼肉の小腸とそのほかの腸との違い
焼肉で人気の小腸にはどのような味や食感の特徴があるのでしょうか。他の腸との違いも紹介します。
小腸は畜産副生物
牛や豚を精肉にする段階で副次的に産出されるものを「副生物」といいます。
社団法人日本畜産副生物協会の「牛可食副生物小割整形処理基準」によると、牛の副生物には、心臓(ハツ)、肝臓(レバー)、.腎臓(マメ)、.第一胃(ミノ)、.第三胃(センマイ)、.横隔膜(ハラミ)、.横隔膜(サガリ)、.小腸(ヒモ)、.大腸(シマチョウ)、.舌(タン)、頭肉(ホホニク)、.尾(テール)などがあります。
このうち小腸(ヒモ)は、地域によって「マルチョウ」「コプチャン」「コテッチャン」「ソッチャン」「シロ」などさまざま名前で呼ばれています。焼肉店では「マルチョウ」と呼ばれることが多いですが、これは丸い筒状のまま提供されることに由来します。
牛の小腸(マルチョウ)は、主に空腸にあたる部分です。小腸のうち回腸にあたる部分はBSEの規制によって、食用にはされず廃棄されます。小腸(マルチョウ)は、大人の牛で約40㎝、直径4㎝ほどあります。1頭から約10㎏も取ることができ、牛のホルモンとしては代表的な部位です。焼肉の他には、もつ鍋やもつ煮によく使われることで知られています。
一方で豚の副生物には、心臓(ハツ)、肝臓(レバー)、.腎臓(マメ)、.胃(ガツ)、小腸(ヒモ)、大腸(ダイチョウ)、舌(タン)、.足(トンソク)、子宮(コブクロ)などがあります。
豚の小腸(ヒモ)は、ホソと呼ばれることもあります。脂がのっていないので焼肉で食べられることが少なく、大腸と合わせて「モツ」として煮込みにされることが一般的です。
なお、関西より西では牛肉、東京より東の地域では豚肉の消費が多いと言われ、同様に西では牛、東では豚の小腸が多く食べられています。
焼肉で食べられる牛の小腸(マルチョウ)の特徴
牛の小腸(マルチョウ)は、脂が豊富で柔らかいのが特徴です。牛の小腸の外側には脂がついていますが、マルチョウは、この脂の部分を取り除かずに、腸を裏返して脂を中に閉じ込めています。
そのため、マルチョウは脂の甘みがありジューシーで、プリプリとした食感が特徴で、ホルモンを提供してる焼肉店では人気の高い部位です。
脂が多いことからカロリーを気にする方もいらっしゃるかもしれません。マルチョウのカロリーは、100gあたり約268㎉あり比較的高カロリーが高いので食べ過ぎに注意しましょう。
一方で、コラーゲンの主成分である非必須アミノ酸の「グリシン」と「プロリン」や、ビタミンB12が豊富です。コラーゲンは、肌や髪の健康を保つのに欠かせません。また、ビタミンB12は赤血球を構成するうえで欠かせないビタミンなので、貧血ぎみの女性にはおすすめの部位です。
■小腸(マルチョウ)の食品成分
エネルギー(㎉) | ビタミンB12(㎍) | グリシン(mg) | プロリン(mg) | |
肉類/<畜産類>/うし/「副生物」/小腸/生 | 268 | 21.0 | (950) | (610) |
牛の小腸と他の腸の違い
牛の腸には、牛の体内を食べ物が通る順番で、小腸(マルチョウ)の他に大腸(シマチョウ)、直腸(テッポウ)の3つの種類があります。それぞれの特徴について紹介します。
大腸(シマチョウ)の特徴
牛の大腸は、表面の脂に縞模様が見られることから「シマチョウ」と呼ばれます。関西では、「テッチャン」とも呼ばれることもありますが、これは朝鮮語の大腸を意味する「テチャン」に由来しているといわれています。
シマチョウは、小腸の端から直腸までの臓器で、牛1頭からは1〜1.5㎏しか取れない希少価値の高い部位です。適度な脂とホルモンならではの弾力や歯ごたえがあり、焼肉店では人気があります。
直腸(テッポウ)の特徴
牛の直腸は、「テッポウ」と呼ばれますが、これは切り開いて伸ばした時の形が鉄砲の銃座に似ていることに由来します。他に「ケツ」や「オカマ」と呼ばれることもあります。
筋肉が発達している部位なので、マルチョウやシマチョウと比べると弾力があり硬いのが特徴です。脂が少ないのでさっぱりとした味わいで、低カロリーでヘルシーです。
なお、牛の小腸(マルチョウ)、大腸(シマチョウ)、直腸(テッポウ)の100gあたりのカロリーと脂質の違いは次の表の通りです。
エネルギー(㎉) | 脂質(g) | |
小腸(マルチョウ) | 268 | 26.1 |
大腸(シマチョウ) | 150 | 13.0 |
直腸(テッポウ) | 106 | 7.0 |
参考:文部科学省「食品成分データーベース」
焼肉の小腸の焼き方
焼肉で小腸(マルチョウ)を食べる際のおいしい焼き方を紹介します。
小腸(マルチョウ)のおいしい焼き方
マルチョウは脂が多いので、注意して焼かないと焦げ付かしてしまうことがあります。網や鉄板にのせた後は放置せずに、コロコロと転がすように焼きましょう。外側の皮に焼き目がつき縮んで、中から脂がしみ出してきたら食べ頃のサインです。
脂が多く煙が出やすいので、一度にたくさん焼く時には注意が必要です。自宅でマルチョウを焼く際には、屋外で七輪を使うのがおすすめです。
家の中でフライパンやホットプレートなどで調理する際には、脂が溜まらないようにするのが美味しく焼くポイントです。また、マルチョウから脂が出るため、フライパンやホットプレートに油をひく必要はありません。
小腸を使ったレシピ
牛の小腸(マルチョウ)を使ったレシピを紹介します。
小腸(マルチョウ)の下処理
マルチョウを調理する前には、必ず下処理を行う必要があります。きちんと下処理をすることで、臭みを取り除いてマルチョウ本来の脂の風味が味わえます。下処理するにはいくつかの方法がありますが、ここでは、その中から代表的な方法を紹介します。
熱湯で茹でる方法
マルチョウを熱湯で茹でた後に流水で洗う方法です。臭みを取るために、茹でる水にはネギや生姜、ニンニクなどの香味野菜を入れます。水が沸騰したらマルチョウを入れて下茹でします。あまり長時間茹でると旨みが逃げ出してしまうので、沸騰してから5分ほどが目安です。
1度の下茹でで臭いが気になる時には2度茹でしてみましょう。茹で上がったらザルに上げて、マルチョウをこすり合わせるように流水で洗い、汚れや余分な脂を洗い流します。
小麦粉や塩を使う方法
マルチョウに小麦粉や塩をまぶして汚れを吸着させる方法です。マルチョウ全体にたっぷりの小麦粉をまぶして、もみ洗いするようにゴシゴシこすり合わせます。その後、流水で洗って汚れを流します。塩を使う場合には、この作業を2~3回繰り返します。
焼肉以外のマルチョウのおすすめレシピ
最後に焼肉以外で、マルチョウをおいしく食べるおすすめのレシピを紹介します。
マルチョウを使ったもつ鍋
「もつ鍋」は、元々は福岡の郷土料理ですが、今は全国で親しまれています。戦後、炭鉱夫として働いていた朝鮮の人たちが、アルミ鍋にホルモンとニラを入れて醤油で味付けして食べていたのが始まりと言われています。
鍋にキャベツやニラ、モヤシなどの野菜とスープ(だし汁、しょうゆ、みりん、塩)を入れて、火にかけます。野菜の上に下処理したマルチョウをのせて、お好みで赤唐辛子で味を調えます。
具材を食べ終わったら残った汁にごはんやうどんを入れて締めるのが「もつ鍋」の楽しみでもあります。本場の福岡ではチャンポンの麺を入れるお店もあります。もつ鍋の汁には、マルチョウのコラーゲンがたっぷり溶けだしているので、ごはんや麺を入れて残さず味わいましょう。
フライパンで調理するホルモン焼き
下処理をしたマルチョウを、ニンニク、生姜、ごま油、砂糖、濃口醤油、みりんを適量まぜた漬けダレに30分ほど漬け込みます。
フライパンを火にかけて、油をひかずにマルチョウを脂を上、皮を下にして漬けダレごと入れて焼きます。漬けダレが煮詰まる直前まで焼けたら、白ゴマをふりかけてタレをからめるように脂の部分も焼いていきます。
脂の部分に火が通ったら、フライパンを傾けて余分な脂を片側に集めて、キッチンペーパーなどで脂を吸い取ります。器に盛り付けて上から刻みネギをのせたら完成です。
お酒のおつまみにもぴったりですが、ごはんにのせて「ホルモン丼」にするのもおすすめです。
まとめ
ここまで牛の小腸(マルチョウ)の特徴や他の腸との違い、おいしい食べ方などについて紹介してきました。小腸(マルチョウ)は、牛のホルモンとしては代表的な部位で、焼肉の他に、もつ鍋やもつ煮などで人気の部位です。
体調(シマチョウ)や直腸(テッポウ)と比べるとカロリーや脂質が高く、食べ過ぎには注意が必要ですが、肌や髪の健康を保つのに欠かせないコラーゲンや、赤血球を構成するうえで欠かせないビタミンB12を豊富に含むため貧血ぎみの女性におすすめの部位です。
きちんと下処理をすると臭みも気にならないので、家庭でも「もつ鍋」などにして気軽に味わってみてはいかがでしょうか。