『牛は捨てる部分がない』とよく言われます。
牛の精肉や内臓は食卓に、血は結着材に、皮は衣料品や墨汁の原材料に、骨は飼料や肥料に。
特に牛一頭から約150キログラムも取ることができるバラエティ豊かな牛の内臓は、今や我々の生活に欠かせない重要な食材の一つになっています。
今回はそんな奥が深い牛肉の内臓の世界についてご紹介します。
牛肉の内臓について
牛肉の内臓の歴史
そもそも内臓は牛の解体の際に出る『畜産副生物』と呼ばれるもので、海外ではバラエティーミート(variety meat)やファンシーミート(fancy meat)、オファル(offals)、バイ・プロダクツ(by-products)という様々な呼び名があります。
内臓肉は精肉に比べて保存性や下処理の手間、更にそれに伴う廃棄率が高いことから、屠畜の段階から全く別ルートの肉の流通経路を辿ってきました。
そんな牛肉の内臓の日本での歴史としては、明治時代まで遡ります。
1906年、まだ内臓肉が市民に定着する前の話です。
神戸の屠畜場の周辺地域では、大きな鍋で煮込まれた内臓肉が一皿一銭で売られていた記録があり、その鍋は大変人気であったと言われています。
やがて1930年代になると、内臓肉も専門業者を介して流通するようになり、内蔵食は一般向けに広がりをみせるようになりました。
『料理の友』という料理雑誌では、1936年から年に一度のペースで『ホルモン料理特集』が刊行され、内臓料理は更に庶民に定着、1940年頃には豚の内臓を串に刺してタレをつけて焼いた『やきとり』が売られ、人気を博しました。
食べられない牛肉部位
牛は食べられない部位はないと先述しましたが、実は安全衛生上の観点から食べることを禁止されている危険部位があります。
『牛海綿状脳症』通称『BSE』と呼ばれる牛が感染する恐ろしい病気があります。感染してしまうと牛の脳がスポンジ状になり、異常行動や運動失調を引き起こして最終的に死に至ることもあるのです。
この病気に感染した牛の異常プリオンが溜まった部位を食べることで人にも感染し、『クロイツェルトヤコブ病』という神経難病を発症することもあります。
この病気の原因であるBSEプリオンと呼ばれる病原体が溜まりやすい部位を『特定危険部位』と呼び、屠畜の際適切に焼却処分をすることで、人が誤って食べる事の無いように配慮されています。
ちなみに『特定危険部位』は
- 全月齢の扁桃と回腸遠位部
- 30か月齢を超えた牛の頭部(舌、頬肉、皮を除く)と脊髄及び脊柱
と定められています。
安全に配慮した牛肉の内臓加工
精肉に関しては、『熟成肉』という言葉があるように適正な熟成期間を設けることでより旨みが増すことがありますが、内臓肉は鮮度が命。
特に消化器官などは早く処理をしなければ、内臓肉に臭いがうつってしまうので、内部の洗浄や消毒、余計な脂肪の除去などは人手をかけてスピーディーに作業を行っています。
また畜産副生物は精肉と違い、ひとつひとつが独特で複雑な形状をしており、大きく分けるとレバーやハツなどの赤色をした『赤もの』と呼ばれる内臓と胃や腸などの白色をした『白もの』に二分されます。
内臓の中でもより白ものは内部に未消化物が残っている事が多いため、他部位に比べて更に丁寧な洗浄などが必要です。
衛生的に畜産副生物を加工処理するため、内臓を取り出す前に食道と直腸を縛る事で内容物の漏れ出しを防いだり、内臓の処理用ナイフは一頭使用する毎に消毒したりと、安全衛生には非常に配慮しています。
最近はHACCP方式と呼ばれる衛生処理方式の導入が進められたり、処理器具の機械化でより効率的かつ迅速な処理ができるようになりました。
美味しい牛肉の内臓レシピ
ホルモン焼きにモツ煮込み、レバニラ等内臓料理は体にもよく美味しいものが沢山あります。
今回は海外の牛肉の内臓レシピをご紹介します。
是非異国の内臓料理を試してみてください。
○ハチノスの夫婦肺片風、麻辣和え
https://cookpad.com/recipe/6564242
材料
- 牛ハチノス(下処理してあるもの)120~150グラム
- 酒(あれば紹興酒)大さじ2くらい
- きゅうり適量
- パクチー適量
- ピーナッツ(無塩)適量
A
- 醤油大さじ1
- 砂糖小さじ1/2~好みの量
- 酢小さじ1~好みの量
- ラー油小さじ1~好みの量
- 花椒(ミルで挽くかパウダー)小さじ1/2~好みの量
- にんにくのすりおろし少々
作り方
- ハチノスは2cmくらいの長さの短冊切りにする。酒を加えたお湯で好みの柔らかさになるまでゆでる。
- Aを混ぜてたれを作る。ピーナッツは粗く刻む。きゅうりは薄切りにする。パクチーはざく切りにする。
- ハチノスをざるにあげて水けをよく切りひだの部分などはキッチンペーパーでよくふき取りボウルに入れる。
- 混ぜ合わせたたれでハチノスを和えて盛り付ける。野菜を添えてピーナッツを散らし完成。
こちらは四川料理の1つ『夫婦肺片(フーチーフェイピン)』
茹でたウシの内臓を香辛料で味付けしたものです。
ピリ辛の味付けがハチノスに絡みます。追加でレバーやホルモンを加えても美味しいそうです。
○フィリピンの簡単カレカレKareKare
https://cookpad.com/recipe/3903787
材料
- 牛塊肉(シチュー用)500グラム
- ナス3個
- チンゲン菜1袋
- インゲン豆1袋
- 玉ねぎ1/2個
- ニンニク1片
- 水表示量の1割増し
- 粉末スープの素(今回は韓国のダシダ)大さじ1
- カレカレの素1袋
- サラダ油適量
- ピーナッツバター大さじ2~3
- 食べる時に
- アンチョビペースト適量
作り方
- 【下準備】牛肉は大き目一口大に切り、カレカレの素の裏に書いてあるより1割増しの量の水と圧力鍋に入れ20分加熱し自然放置
- 玉ねぎとニンニクはみじん切り。ナスは2センチ幅に切り水にさらしあく抜き。いんげん、チンゲン菜は食べやすい大きさに切る
- フライパンに油と玉ねぎニンニクを入れ炒めます。香りが立って来たら、1のお鍋の中にある肉とナスを入れさらに炒めます
- ナスがしんなりしてきたら、フライパンの中身とタシダを牛肉のゆで汁が入っていたお鍋に戻し、そのまま15分ほど加熱します。
- ナスに火がしっかり通ったらカレカレの素とチンゲン菜、インゲンを加え更に10分ほど煮こんだら、最後にピーナッツバターを投入
- お皿に盛って完成!
本当は食べる時に「バグオン」という網海老の塩辛を添えますが、日本にないのでアンチョビペーストで代用
こちらはフィリピン料理の1つ。
本来はテールと呼ばれるウシの尾をピーナッツと一緒に煮たシチューのことだそうです。
あましょっぱい味付けが食欲をそそります。
○猪のロッキーマウンテンオイスター
https://cookpad.com/recipe/6986921
材料
- 猪の陰囊1頭分(2個)
- 塩コショウ少々
- 片栗粉適量
作り方
- 猪の陰囊の外皮をむき薄くスライスする
- 1に塩コショウし片栗粉をまぶす
- 2を180度の油で揚げる
- タルタルソースかレモンを絞り美味しくいただきます
こちらはアメリカ合衆国西部における伝統料理。
本来はウシの睾丸をフライにしたものです。
『山のカキフライ』とも呼ばれるそうで、一度は口にしてみたい珍味です。
牛肉の内臓の種類
これまで牛肉の内臓についてみてきましたが、一体どのくらいの種類があるのでしょうか?
独特の呼び名と一緒に牛の内臓の詳細を覚えておくと、焼肉屋での注文をより一層楽しむことができるかもしれません。
○タン
牛の舌。
タンは三分位に分かれており、舌先から『タン先』『タン中』『タン元』と呼ばれ、それぞれ違う食感を楽しむことができる。
○ショクドウ
牛の食道。筋繊維の部分のため、コリコリとした食感で、噛みごたえがある。
○ウルテ
牛の気管の軟骨。別名フェガミとも呼ばれる。
ゴリゴリとした食感で大変固いため、表面に専用の機械で切り込みを入れて提供されることが多い。
味は淡白で食感を楽しむ部位。
○ハツ
牛の心臓。食感と歯切れがよく、臭みも少ない。
英語で心臓を意味するheart(ハート)がなまってハツと呼ばれるようになったと言われている。
○レバー
牛の肝臓。ビタミンや鉄分などが他の部位よりも群を抜いて含まれ、クリーミーで濃厚な甘さ。
○ハラミ
牛の背骨側の横隔膜。
味が強く、肉の旨みを存分に味わう事ができる。
○サガリ
牛の肋骨側の横隔膜。
肉の旨みをしっかりと感じることが出来、ハラミよりも更に柔らかい。
○ミノ
牛の第一胃。非常に強い歯応えがあり、噛めば噛むほど味わいを感じられる。厚みのある脂肪が乗っている部分を『ミノサンド』と呼ぶ。
食べるときに包丁で切り込みを入れることが多く、切り開いた形が蓑笠に似ているところからミノと呼ばれるようになった説がある。
○ハチノス
牛の第二胃。形状が蜂の巣に似ているため、この名前がつけられた。ホルモンの中で一番味が濃いとも言われる。
焼きすぎると硬くなるため、サッと炙って食べるのが美味しい。
○センマイ
牛の第三胃。薄味なため、濃い目の味付けが好まれる。
独特な見た目から『雑巾』と呼ばれることもある。
茹でたものを『センマイ刺し』と称して提供されることもあり、人気が高い。
○ギアラ
牛の第四胃。別名赤センマイ。
濃厚な味わいで、プルっとした食感の食べやすさが人気。ホルモンの中でも肉に近い食べ応えがある。
生物学上では、このギアラのみが本来の胃の役割を果たしており、他の胃は反芻のため食道が進化したものと言われている。
○マルチョウ
牛の小腸。ホルモンと言われてイメージされるのはこのマルチョウ。コプチャンとも呼ばれる。
豊かな甘みとプルプルの食感は煮ても焼いても美味しく食べることができる。
○シマチョウ
牛の大腸。テッチャンとも呼ばれる。
マルチョウと呼ばれる牛の小腸よりも脂肪分が少なく食べやすい。縞模様が入っていることからこの名前がついた。
○テッポウ
牛の直腸。脂肪分が少なく、しっかりとした食感。
開いた形が鉄砲のように見えることからこの名前がつけられたと言われる。
○チレ
牛の脾臓。タチギモとも呼ばれ、レバーのようなねっとりした食感がありつつも、レバーのような臭みがなく、食べやすい。
○コブクロ
牛の子宮。漢字で書くと『子袋』
脂肪が非常に少なく、コリッとした食感で淡白な味わい。どんなタレにも馴染む。
○テール
牛の尻尾。長さは約60センチメートルもある。
脂肪分たっぷりで、味わい深い。
煮込んで出汁を取ってスープにしても、焼いても美味しい。
○フワ
牛の肺。『マシュマロ』『ほっぺ』『フク』『バサ』など多数の呼び方がある。
レバーのような食感、柔らかいこんにゃくのような弾力性がある。ところどころに軟骨質の気管支が通っているため、フワフワの中に軟骨の食感を楽しむことができるのも面白い。
臭みが少なく、味が染み込みやすいため煮込み料理に向く。
○ツラミ
牛のほほ肉。かみごたえがあるため、薄くスライスして焼き肉や、厚切りでじっくり煮込む煮込み料理に。
ゼラチンが豊富なため、ダイエットや美容にもおすすめです。
○アキレス
牛スジでお馴染みの牛のアキレス腱。
プルっとした見た目に反して歯応えがある肉。おでんなどの煮込み料理にも重宝される。長時間煮込むことでトロトロに。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
舌から尻尾まで、牛はありとあらゆる部位を美味しくいただくことができます。
見た目などで敬遠せずに、是非色々な牛肉の内臓の部位にチャレンジしてみてください。
あなた好みの美味しい部位が見つかるかもしれません。