妊婦がローストビーフを食べる話

 妊婦さんはローストビーフを避けた方がいいと聞いたことはないでしょうか。実はローストビーフは完全に火が通っていないことも多く、妊婦さんにとってはリスクが高い食べ物なのです。この記事では、なぜローストビーフはリスクが高いのか、赤ちゃんへのリスクはあるのか、などをご紹介していきます。

 

妊婦がローストビーフを食べる事は、OK?

妊婦さんはローストビーフを食べてもよいのでしょうか。ローストビーフは完全な生肉ではありませんが、半生の状態で提供されることもしばしばあります。ローストビーフは日本の食品衛生法の加熱殺菌基準の分類で「特定加熱食肉製品」に当たり、「材料の肉塊の中心部を63℃で瞬時またはそれと同等以上の加熱をする」と決められています。

しかし、細菌などが死滅する中心温度は85℃以上とされています。ローストビーフの調理工程では中心温度85℃以上にならないことから、寄生虫の感染や食中毒の可能性が否めません。そのため、妊婦さんはローストビーフを食べる事はできるだけ避けた方がよいでしょう。

 

トキソプラズマへ感染の危険性

食肉のトキソプラズマを死滅させるには中心部が67℃になるまで加熱することが必要とされています。ローストビーフの加熱基準ではトキソプラズマは死滅させられないので、感染してしまう危険性があります。

 

リステリアへ感染の危険性

リステリアも死滅させるには65℃以上で数分間加熱することが必要です。トキソプラズマ同様、リステリアもローストビーフの加熱基準では感染してしまう危険性があります。

 

母体が抗体を持っている可能性もある・検査方法

トキソプラズマ抗体の有無は「トキソプラズマ抗体検査」を行えば、はっきりわかります。この検査は標準的な妊娠検査の検査項目ではないものの、希望すれば多くの産婦人科で受けることができます。

「陰性(抗体がない)」の判定が出たら、妊娠中に感染しないように予防、努力しましょう。「陽性(抗体がある)」と判定が出た場合は、妊娠中に感染したかの感染時期の把握と赤ちゃんへの感染への有無についてより詳しい検査を行い、必要に応じて治療を行います。妊娠前に抗体、免疫を獲得している人は、赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症を起こす心配はありません。

 

胎内感染した場合の危険性・先天性トキソプラズマ症

妊婦さんがトキソプラズマに感染した場合、赤ちゃんにも感染するリスクがあります。妊娠周期が進むほど赤ちゃんへの感染リスクが高くなりますが、感染した場合重症の症状が出やすいのは妊娠初期です。赤ちゃんに感染した場合、流産したり、無事出産したとしても先天性トキソプラズマ症を患い、脳や視力に障害をもって生まれてくるリスクがあります。 

 

妊婦が家でローストビーフを食べることは危険?

妊婦さんが家でローストビーフを食べる事のリスク、ポイントについて確認していきましょう。

 

加熱温度の不足

ローストビーフは生肉ではないものの、低温調理のため加熱温度が不十分です。特に家で作る場合は温度管理が難しいためさらに加熱不足の危険性があります。

 

そもそも生肉に触れる事のリスクがある

ローストビーフを作る際、必ず生肉に触れます。また、生肉に触れた手でお皿やタオル、他の場所を触ることで、生肉だけでなく他にも感染源が広がる場合もあります。妊娠中はまず生肉に触れないようにすることが良いでしょう。また、生肉を触った後は、よく手を洗い、使用した包丁やまな板、お皿もよく洗うようにしましょう。

 

どうしても食べたい場合はしっかりと焼く

お肉を絶対に食べていけないわけではありません。先程も記載したとおり、しっかりと加熱すれば死滅させることができます。お肉を食べる際はしっかり中まで加熱しましょう。またローストビーフを食べたいのならば、中心温度67℃以上になるまでしっかりと加熱しましょう。

 

不安になるなら食べない

食べたからといって、必ず感染するわけではありませんが、不安に思うのならば妊娠期間中は食べないことをおすすめします。たった一回、一口で後悔する事がないよう、妊娠期間中は特に食生活に気を付けましょう。

知らずに食べてしまった場合の対処法

まずはトキソプラズマに感染しているかの有無を検査で確認しましょう。検査結果により、きちんと治療を行うことで赤ちゃんへの感染を減らすことができます。

 

先天性トキソプラズマ症とは

妊娠中の妊婦さんがトキソプラズマによる初感染をおこし、胎児に感染することにより発症します。妊娠初期に感染した場合、流産、死産となる場合があります。妊娠後期に感染した場合は出生時に何らかの異常を認める場合や、無症状の場合もあります。出生時の症状の有無にかかわらず、その後視力障害や精神運動発達遅滞などの遅発性障害を合併する場合があります。

 

潜伏期間・症状

免疫に異常がなければ、トキソプラズマに感染しても一般に何の症状もありません。10〜20%の人で、リンパ節が腫れたり、インフルエンザのような症状がでたりします。潜伏期間は症状が軽い場合が多いことから、はっきりしない場合が多いです。症状が出る場合には10日から数週間とされています。

 

原因・感染経路

トキソプラズマが唯一の宿主として増殖するのはネコ科の動物です。ネコもトキソプラズマに感染した生肉を食べることで感染します。ネコを飼っているご家庭では、屋内で飼うようにし、外に出さないようにしましょう。また、トキソプラズマは生肉に存在しているので、生肉にはできるだけ触れないようにし、しっかりと加熱をして食べるのが良いでしょう。

 

検査・治療薬

トキソプラズマは血液検査で検査することができます。治療の対象となるのは妊娠中に初感染した場合です。治療薬として経口錠剤を1日3回、分娩まで毎日服用します。

 

そのほかに妊婦が気を付けるベき食べ物

ローストビーフだけでなく、妊婦さんには他にも気を付けていただきたい食べ物があります。絶対に食べてはいけないわけではありませんが、控えた方が安心な食べ物をしっかりと学びましょう。

 

安全なものを選ぶ

第一に安全なものを選びましょう。消費期限が過ぎているもの、冷蔵保存のものを何時間も常温に放置したもの、何日も前に作った手料理など、不安な要素が少しでもあるものは控えましょう。

 

チーズ

非加熱状態のナチュラルチーズにはリステリア菌が潜んでいる可能性があるので控えましょう。チーズが食べたくなってしまった場合は、リステリア菌は熱に弱いので加熱して食べましょう。また、加熱処理が済んでいるプロセスチーズも食べても問題ありません。

 

生卵

生卵にはサルモネラ菌が付着している可能性があるので避けましょう。半熟卵や温泉卵なら大丈夫なのでは、と思う妊婦さんもいるかもしれません。しかし、サルモネラ菌を死滅させるには卵の中心温度を75℃以上、1分間以上の加熱が必要なので控えた方がよいでしょう。妊娠中は免疫が低下しているため、卵は完全に火を通しましょう。

 

スモークサーモン

スモークサーモンにもリステリア菌が潜んでいる可能性があります。あわせて、生ハムもリステリア菌やトキソプラズマが潜んでいる場合があるので、控えた方がいいでしょう。

 

まとめ

妊婦さんにはローストビーフだけでなく気を付けた方がよい食べ物がたくさんあります。しかし、必ずしも絶対に食べてはいけないというわけではありません。調理方法を工夫したり、安全なものを選ぶことで、気を付けることができます。妊婦さんが食べたものが赤ちゃんの栄養になります。妊娠中に気を付けた方がよい食べ物、控えた方がよい食べ物をしっかりと把握し、楽しんで食事をしてください。