牛肉のステーキなどで使われる「イチボ」という希少部位があります。赤身の旨みと脂肪のコクをあわせもつ部位で、最近、焼肉店での人気が高いです。サーロインやランプとの違い、おいしい食べ方などを紹介します。
ステーキなどに使われるイチボについて
イチボの名前の由来は
牛肉の流通現場では、ランイチ(ランプとイチボがつながった大きなブロック肉)として取り扱われます。
ランイチは腰からお尻にかけての大きな赤身肉で、ランプは腰側(サーロイン側)、イチボはお尻の骨回り側(お尻のえくぼ部分)にあたります。
イチボの名前の由来は諸説ありますが、牛のお尻の骨の形(Hのような形、aitchbone、エイチボーン)がなまって「イチボ」と呼ばれるようになりました。
牛一頭から取れるイチボの量
イチボは、ランプと外モモ肉の間にある比較的小さな部位になります。
お尻の骨回りのやわらかい部分で、希少部位のため、牛1頭から約2kgから4kg程度しかとれません。
どれくらいとれるかは、牛の品種や体格の大きさによります。
そのため、高級食材として扱われ、贈り物や特別な日の料理に用いられることが多いです。
ステーキのイチボの味や柔らかさの特徴
イチボは、赤身の旨みと脂身の旨みを合わせもつ部位です。
ランプや外モモと同様に「モモ系の部分肉」に分類されますが、外モモのような硬さや歯ごたえはありません。
一部、外モモに近い部分は繊維が粗くて硬めですが、イチボは基本的にお尻側のお肉なので、モモ系の部分肉の中では一番サシ(脂肪)が多く柔らかめだと言われています。
食味のバランスの良さから、和食、イタリアン、フレンチなど多様な業種の飲食店からも引き合いが強いのがイチボです。
ステーキにも使えるため、モモ系の部位の中では高値で取引されることが多いです。
ステーキのイチボと他の部位とはどんな違いがあるのだろうか?
サーロインとの違い
サーロインは、脂肪がやや多めなのでジューシーで柔らかく、脂の甘みとお肉の旨味、芳醇な香りをしっかりと感じることができるでしょう。
イチボはサーロインより脂肪が少なく、すっきりとした味わいです。
品種にもよりますが、黒毛和種のような和牛肉の場合は、多すぎず少なすぎず、適度な脂肪が入っているといえるでしょう。
サーロインのような脂の甘みに加えて、しっかりとした肉の味わいが楽しめるのがイチボです。
きめ細かな脂がイチボの赤身と赤身の間に入っている様子は、英語ではマーブリング(大理石のような模様)と表現されます。
細かな雪が降ったような霜降り牛肉とも言えるでしょう。
サーロインはミディアムレアからウェルダンまで幅広い焼き方で美味しく食べることができます。
一方、サーロインに比べて赤身が多いイチボは、ウェルダンだと硬く仕上がりがちなため、ミディアムレアがおすすめです。
ミディアムレアでは、お肉本来の好ましい香りや脂肪の芳醇な香り、さらに焼いたときの香ばしい香りを楽しむことができるでしょう。
どちらも美味しいステーキですが、好みや食べるシーンによって選んでいきましょう。
ランプとの違い
ランプは赤身が多いのが特徴です。食べごたえのある赤身肉を食べたい場合は、ランプがおすすめです。
しっかりとした弾力と肉のあじわいが楽しめます。
その一方でイチボは、赤身の旨みと脂身の旨みをバランス良く楽しむことができます。
ランプでは赤身の旨み、サーロインでは脂身の旨み、
イチボはその両方の旨みを楽しめるような、良いとこどりの部位と言えるでしょう。
ランプもイチボも、シュラスコと呼ばれるブラジリアンバーベキューで人気の部位です。
塊のまま鉄串に刺し岩塩のみで焼き上げます。
シュラスコの代名詞ともいわれるイチボ(ピッカーニャ)は、ランプ(アルカトラ)に比べて筋肉の繊維が細かいことも特徴です。
そのため、噛みしめると口の中でほぐれるようなやわらかさです。
ミスジとの違い
ミスジは肩甲骨まわりの部位です。
イチボは後ろ足の付け根のお尻側の部位ですが、ミスジは前足の付け根の部位と言えます。
どちらも希少部位で、骨を支える筋肉であり、あまり動かない部位に分類されます。
そのため、肉質が繊細できめが細かく、きめ細かな脂がミスジの赤身と赤身の間に入っているのが特徴です。
ミスジもイチボも、口の中でほどよくとろけるような食感と、バランス良く赤身と脂身の味わいを楽しむことができるでしょう。
焼肉好きの中でミスジのファンは多く、その特徴的な見た目もファンを魅了しています。
ミスジは断面の中心に一本筋(すじ)が入っており、黒毛和種のような和牛肉では、一本筋から広がる葉脈のような脂肪と、断面いっぱいに広がる霜降りが芸術品のようです。
イチボの霜降りはミスジによりは少なめですが、肉全体に脂肪が網目状にきめ細かく入っているため、ミスジに負けず劣らず、きれいな見た目と言えます。
霜降り肉や脂身が好きな人はミスジやサーロイン、赤身と脂身を同時に楽しみたいならイチボ、そのように分けられるかもしれません。
ステーキのイチボを選ぶときのポイントとは?
ステーキのイチボを選ぶ際のポイントは、まず肉の霜降りや肉の色を見てください。
霜降りが多いほどやわらかく、味わい深い肉になります。
また、肉の色も鮮やかであることを確認しましょう。新鮮な肉は色が良く、美味しさが保証されます。
さらに、肉の厚みも重要です。適度な厚みがある肉は焼き加減を調整しやすく、ジューシーな食感を楽しめます。
ミディアムレアにする場合は、2cm程度の厚みがあった方が良いでしょう。
イチボは筋肉の繊維がきめ細かく、大きな筋(すじ)があることは少ないですが、調理する前に確認すると良いでしょう。
筋肉の繊維や筋に垂直になるように包丁を入れることで、柔らかくて口の中で溶けるような食感が楽しめます。
これらのポイントを押さえて、自分好みのイチボを選びましょう。
イチボステーキの値段はどれくらいが相場?
イチボステーキの値段は、品種や等級によって大きく異なります。
輸入牛やホルスタインなどの国産牛では比較的安く、100gあたり500円程度で販売されています。
神戸牛、松坂牛、米沢牛などの黒毛和種のブランド牛肉、特にA5ランクと呼ばれる上物の牛肉は、その希少価値やブランド力から国内外での需要が多く、高値で取引きされます。
店舗によって価格は異なりますが、100gあたり3,000円から5,000円程度となることもあるでしょう。
特別な日のための贈答品としてもステーキ用のイチボは人気です。
価格帯が幅広いため、品質にこだわりながら選ぶと良いでしょう。
イチボステーキが脂っぽい場合のさっぱりした食べ方とは?
イチボステーキの調理前に脂が少し多いと感じた場合、さっぱりとした食べ方としては、以下のような方法があります。
まず、ステーキの調理前に周りの脂身の部分を取り除くと、脂の量を抑えることができて、さっぱりと食べることができます。
焼く前に、赤身と赤身の間に入っている脂肪がどれくらいあるかを確認します。
脂肪が多い場合は、油をあまり使わずに焼き上げることで、適度な脂肪が溶けてあふれ出し、さっぱりと食べることができるでしょう。
レモンやポン酢、わさび醤油などのさっぱりとした調味料で食べることで、脂っぽさを抑えることができます。
黒毛和種のような和牛肉に比べて、やや風味が劣るような海外産の牛肉では、レモンやポン酢をかけることで、風味の悪さを打ち消すことができるでしょう。
ほどよく脂肪が入っているイチボには、わさび醤油がおすすめです。
お寿司の大トロを食べるような感覚で、わさびをのせ、醤油を少量つけて食べると良いでしょう。
さらに、サラダや野菜を一緒に食べることで、口の中の余分な脂を吸収し、さっぱりとした味わいを楽しめるでしょう。
イチボステーキに合う味付けやお酒
イチボステーキの味付けは、赤身の旨みや脂肪の旨みを引き立たせるような、岩塩や海塩が良いでしょう。
塩の量は、多い方が脂肪のこってりした風味を抑えることができます。
黒毛和種のような和牛肉の場合、焼くときに塩をひとふりするだけでも美味しいですが、
コショウやガーリック、ローズマリー、タイムなどのハーブを使うとさらに風味が増します。
高級なA5ランクの和牛肉では、生肉でも感じられるような脂肪の芳醇な香り、甘く脂っぽい和牛香(わぎゅうこう)が備わっています。
そのため、海外のステーキ料理のような、こってりとしたソースがなくても、十分その美味しさを堪能できます。
すっきりとした食べ方の1つとして、わさび醤油もおすすめです。
和牛肉には甘みがあるため、甘みを抑えた醤油が合います。
以上のように、肉本来の味わいを楽しむ食べ方がおすすめですが、味つけについては好みが分かれるため、好みの味つけを見つけていきましょう。
一方、イチボステーキに合うお酒は、赤ワインが一般的です。
赤ワインに含まれるタンニンは渋味があり、肉の脂っぽさを抑える役割があります。
レモンですっきりと食べる場合は、白ワインが合うと言われています。
お祝いの日やハレの日に高級和牛肉を食べる場合、スパークリングワインでお祝いしながら食べるのもおすすめです。
食べていて脂肪が気になる場合は、途中で口飽きすることもあるので、すっきりした炭酸系のお酒、ビール等も合わせることで、おいしく食べることができるでしょう。
また、さわやかな味わいの日本酒や焼酎もおすすめです。
焼酎は、芋焼酎よりもクセがなくすっきりとした麦焼酎が良いでしょう。
以上のような味付けとお酒の組み合わせで、イチボステーキをより一層楽しむことができます。
まとめ
イチボは希少部位で高級感のあるお肉です。
サーロインやミスジなどのステーキとはまた違う味わいを楽しめます。是非、焼肉屋やステーキ店、精肉店で購入しその違いを楽しんでみてください。